さようなら、憂鬱な木曜日

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サラリーマンの投資ログなど

【書評】不動産営業マン小説「狭小邸宅」が面白い!|サンドイッチマンの正体

友人に勧められたので、久々に小説を読んでみました。

新庄耕氏の「狭小住宅」という小説です。

この小説は不動産営業マンが主人公の小説で、第36回すばる文学賞を受賞しています。

「不動産営業」というと、正直言って「きつい」「ノルマがある」「休みがない」ぐらいのイメージしかなかった私ですが、その実態がどんなものか興味がありました。

面白くて一気に読んでしまったので、その感想を書いていきたいと思います。

 

 

サンドイッチマンの正体

サンドイッチマンって知っていますか?

 

「チーズバーガーセットください」

「チーズバーガーを千個ですね?」

「業者か!」

でおなじみの、コントがめちゃくちゃ面白いお笑い芸人のことではありません。

 

不動産業界においてサンドイッチマンというと、「大きな板看板を前面と背面にぶら下げて、人通りの多い場所などに立って広告塔になる人」のことです。

たまーに私も見かけたりしますが、見るたびに「立ちっぱなしできつそうだなあ」と感じていました。

新人の不動産営業マンはお客さんをゲットするためにサンドウィッチマンをやって、話しかけてきた人に営業をかける、というところから始めるみたいです。

チラシなどの反響営業は売れてる営業マンに回されてしまうので、新人は電話営業から始めるか、サンドイッチマンから始めるみたいです。

売れない営業マンには「お前、サンドイッチマンやってこい!」と怒号が飛び交うわけですね。

 

 

引くぐらいのブラック不動産営業

この小説は冒頭から「不動産営業ってこんなブラックなの?」と引くぐらいの描写で物語が始まります。

売れない営業マンは人間として扱われないというほどの実力至上主義。家が売れていないと、パワハラという言葉では正直生易しいほどの怒号が飛び交っています。

「申し訳ございませんじゃなくて売りますだろ。売る気あんのかよ、てめぇはよ。」

武田さんは俯いたままだった。

「あります」

(中略)

「あったらとっくに売れてんだろ。売る気ないならさっさと辞めろ、もうお前なんかいらねぇんだから」

 さらにはその労働環境。不動産業界は基本的に水曜日がお休みらしいですが、この小説では水曜日に休む営業マンはほとんどいない、と描かれています。つまり、休みナシです。

そして、労働時間も毎日朝から深夜まで。こんな労働環境が存在するとしたら、本当に狂気の世界です。人間的ではありません。

 

 

客をぶっ〇す

不動産業界ではこんな会話が飛び交っているそうです。

「てめえ、冷やかしの客じゃねえだろうな。その客、絶対ぶっ殺せよ」「はい、絶対殺します」中田は静かに答えた。

 

「いいか、不動産の営業はな、臨場感が全てだ。一世一代の買い物が素面で買えるか、臨場感を演出できない奴は絶対に売れない。客の気分を盛り上げてぶっ殺せ。いいな、臨場感だ、テンションだっ、臨場感を演出しろっ」

不動産営業において「殺す」とは、客に不動産を買わせること、みたいです。なんだか物騒ですね。

「お前、今日は絶対に〇してこいよ」なんて言われて会社を出てくるんでしょう。

 

 

不動産営業の極意

この小説における主人公は、最初は全く売れないダメ営業マンだったのですが、あることをきっかけに一件不動産を売ることができ、そこからどんどん営業マンとしての実力を付けていきます。

その変わっていく様が読んでいて面白い!

そして、その過程で敏腕営業課長から「不動産営業の極意」を叩きこまれるのですが、それもなかなか興味深いんです。

「同行して少しわかった。お前はやはり営業マンには向いていないのかもしれない。だが、向いているいない以前に、営業マンとしてやるべきことがやれていない。今日、お前は二四六を平気で使った。普通、幹線道路はなるべく避けて走る、混雑するのがわかりきってるからだ。客を待たせると、その分だけ熱が冷める、現実に戻る。それだけじゃない、路地を使えば客から信頼される。誰でも知ってる国道と、そうでない路地を使ったら、客はどちらが街に詳しいと思う。お前が客だとしたら、街を知らない人間がいい物件を知ってると思うか。お前はそういう小さいことを重要だと思わないのかもしれない。だが、売ってる営業マンで道路が頭に入っていない奴はいない」

こんな感じで叩き込まれ、主人公はどんどん成長していきます。

 

 

まとめ

この小説の読後感として感じたのは、「ブラック企業エンタメ」でもなく、「主人公の成長を描く青春小説」でもなく、「不動産を売る」ということの面白さです。

不動産はその人の人生をある程度左右するほどの買い物です。それを売るということは、当たり前だけど難しいし、責任も伴うし、逆に言えばそれだけプレッシャーも金銭もかかる営業だからこそ、面白みがあって、人を惹きつけるのかもしれません。

自分がやってみたいとは思いませんが、フィクションであったとしてもこういう小説を読んでみて、不動産営業の実態をちょっとわかったつもりになって楽しめました。

オススメです。